ミラクルにいこう!
さりげなく、いつきは昼休みに仕事を教えてほしいと智房に声をかけ、応接室へと誘ってみた。


「どうして、こんなところで?」


「仕事の前にききたいことがあってね。
君の元気がない原因が知りたい。

それと、仕事中に誰かを捜してるように見受けられるんだけど、捜しているの?

上司としては部下の不審な行動は説明がつくようにしておきたいのでね。
どんなことでもいいので、相談してくれませんか?」



智房は信じてもらえないかもしれませんが・・・と先にことわった上で、まひるのことを話した。


「大切な部下と神隠し状態になっていたけれど、2人して戻ってくることができたはずだったのに・・・。
どこにもないんです。彼女の姿が・・・。」

茗花まひるという女子社員なんです。
仕事が遅くて、計算をよくまちがえて、でも丁寧で、明るくて、笑顔がいたずらっこっぽくて、元気によく働いてくれてました。

でも、もどってみると彼女はどこにもいないばかりか、ここの社員の誰にきいても茗花まひるなんていなかったと答えるんです。」


「茗花まひるという女子社員を君だけが知っていて、周りは誰も知らない?」


「はい、人事にも確認しました。でもとりあってももらえません。」



「その茗花まひるという人は君とはどういう関係ですか?
今の説明だと、その人は君の彼女?とても大切な人のようですが。」


「彼女っていう付き合いはまだしていません。
そんなことを言ったら、倒れてしまうかもしれません・・・。

でも、俺は・・・俺にとっては大切な女性だったんです。
いなくなって気づいたっていうのも身勝手なんですが、まさかこんなことになるとは思わなくて。

もどったら告白して人並みにデートなんかもしたいなって思っていました。」



「もし、どこかで発見したらその女性に何をしたいですか?」


「わかりません。見つけて、俺の存在がわかってくれたらすぐには動けない・・・。たぶん。

でも、きっと抱き合って喜びあうような気がします。

あれ?どうしてこんなたわごとめいた話を、課長はじっくりきいてくれるんですか?
俺はそんなにふぬけているように見えてますか。」



「いいや。君が私の妹を大切に思ってくれてると知ってうれしいなと思いましてね。」


「えっ!?うちの妹・・・と言いましたか?
ってことは兄?しかし、彼女の兄は和菓子屋の・・・あれ?

すみません、ご兄弟の話を詳しくきいていませんでした。

妹さんって名前は・・・?」


「まひるですよ。茗花ではなく、菘(すずな)まひる。
それがお捜しの彼女の本名で、君たちはそれぞれに元の世界へもどされた。」


「すずな まひる?
まひるさんの居所はどこなんですか?
どうしてこの会社に存在もしていないことになっているんですか?」


「まひるはこの世界の人間じゃないんですよ。
だから異世界へ君ととばされて、元の世界へ・・・と戻されれば、ここではない実家へと戻されたわけです。

でも理由があって、まひるが君にここまで会いに来ることはできないので、代わりに私が君に話をしにきたというわけです。」


「でも、このタイミングで俺の上司だってあなたは・・・。
それも他の社員はみんな違和感などなく、あなたを受け入れてあたりまえのように働いていて・・・。

まさか、それって・・・魔法?」



「なるほど、まひるのいうとおり、君は頭のいい男ですね。
じつはそうです。」
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