ミラクルにいこう!
智房はまひるの言葉と先ほどのいつきの言葉になんとなくこのままいくと困難が見えるというのはわかった。
しかし、これで終わってしまうなんていう選択肢はないつもりでここまでやってきたのにまひるに別れをきりだされて言葉がすぐに出てこない。
「トモは優秀なビジネスマンだわ。
でも、この世界ではあんまりそれは役にたたないの。
我が家は世界全体の時空の調査と修正作業を王家から仰せつかった家柄なの。
直接手をくだせる者はうちの直系の家族ならできることなんだけど、外部から家に入った人たちはそれをサポートする立場にあるわけ。
サポートするだけでも、相応の学力と体力、そして・・・魔力がいるの。
その魔力を引き出すのに、魔力の素質がない人はそれこそ死ぬ思いをしてできるかできないか・・・。
そしてもしもできなかったときには・・・。」
「死ぬのかい?」
「ええ。実際には死ぬ前に修行は終了するけど・・・この世界の人だったら邸から自宅へ帰るだけ。
でも・・・智房さんは・・・もう帰るところが・・・。
兄様に存在を消されてここに移住して、目標が成就できなかったら・・・ずっとこの世界にひとりぼっちでいることになってしまいます。
しかもこの世界での智房さんの寿命はどのくらいかわからないので、ずっとさみしい思いをしながら生き続けるのかもしれません。
そんなことになったら・・・まだ・・・まだ会社でバリバリ働いておられる方があなたらしくていいに決まっています。」
「なぁ、俺はいつから君を見ていたと思う?」
「えっ・・・私記憶が曖昧で・・・気がついたら怒られてたみたいな記憶しかないんです。ごめんなさい。」
「本社で君にはじめて会ったときからだよ。」
「えっ!?」
「ぎこちない手つきでお茶をいれて持ってきてくれた。
小柄で小さな手をして、少し手が震えてた。
怖がられてるな~って思って顔を見てみると満面の笑みで・・・。
とてもかわいらしかった。
営業にいくはずが、営業担当の上と相性が悪くてね・・・社長はいとこだからなんとかなるかなって相談にいったけど、社長にもよく思われてない俺は
購買へと送られた・・・。
やけになりかけたときに、また君と出会えていっしょに仕事ができるとわかったらやる気になれた。」
「でも、怒ってばかり・・・。」
「それは、仕事のミスは正さないといけないのと、君をそばにおきたいから・・・。
俺は君がそばにいればがんばれる。
ほら、ゴキブリとだって戦った男だからな。」
「でも・・・もし魔力が持てなかったら・・・。」
「ずっとこの世界でひとりでいい。
それでも、遠くから君の顔くらい眺められるのだろう?」
「智房さん・・・。」
「結婚しよう。いや、結婚してください!」
「はい。
あの、すぐに兄様たちに報告してきますから、少しここで待っててくださいね。」
まひるは大喜びでいつきを呼びながら廊下を走っていった。
(おいおい・・・廊下を走っちゃいかんって怒られるんじゃないのか?)