ミラクルにいこう!
まひるが経理課から物品庫へともどってみると、智房を置いたところに姿が見えない。


そして、床には茶色い羽のようなものや虫の足が落ちている。


「ま、まさか!トム?トム・・・どこなの?返事をして!」


部屋の隅っこでバタバタという音が聞こえて、まひるはそっちをのぞいてみると、体に傷を負った智房が倒れていた。


「きゃあ!!!くっ・・・この部屋ってゴキブリがたくさんひそんでいたんだわ。
私ってバカバカ!ねぇ、トム?・・・起きてください、智房さん!」


まひるはハンカチを裂いて、智房の傷ついた手足に止血をすると両手でつかんだまま慌てて帰宅した。


消毒薬と傷薬で手当てして、泣きじゃくるしかなかった。


「ごめんなさい・・・。私が置き去りになんかするんじゃなかったのに。
目をあけてください。お願い。

これからはどこでもいっしょに連れて歩きます。
ほんとにごめんなさい。私が守るなんて偉そうなこといっておきながら、こんなこと・・・。」



「うっ・・・あ、ごめん、ひっくり返って気絶してたみたいだ。
ゴキブリのボスと格闘してたんだけど、油でひっくり返ってしまった。」



「智房さん、気がついたんですね。ほんとに大丈夫なんですね。
よかった・・・ほんとによかったです。」



「手当と心配してくれたのか?」


「あたりまえじゃないですか!もう倒れてる姿見たら、心臓がとまるかと思いましたよ。
ごめんなさい。私・・・虫とかちっちゃい生き物の存在なんて、ぜんぜん気にしていませんでした。

謝って済む問題じゃないんでしょうけど・・・ごめんなさい。」



「でも助けてくれたんだろう?ありがとう。
君がいなかったら、俺はこの姿では生きられない・・・。」


そんな会話をしていると、突然またまひるは目がくらむような光を感じて目をふせた。
そして、声が聞こえる。


「勇者を連れて、庭の黄色いプランタの穴へおはいりなさい。
みんなが待っています。

たくさんの仲間があなた方を待っているのです。」


「たくさんの仲間?」


まひるは智房を連れて黄色いプランタの前に座ってみた。


「ここでどうしたらいいんだろう?」


「目の前にある穴から飛び降りてください。
落ちてけがなどはいたしませんから、穴に向かっておりてください。」


そう指示する声が聞こえて、まひるは困ってしまった。

智房だけ穴に突き落とすことなどできない。

かといって自分は見ているしかできない。


(どうすればいいのよ。けが人を穴に放り込むなんてできないわ。)



まひるは智房をプランタの中の穴の前へと下して、小さな穴を覗き込もうとした。


「ぎゃあーーーーーー!!!!」


なんと、まひるもあっというまに小さくなって、智房といっしょに穴の中へと落ちていくのだった。


そして、やっと動きが止まったところで、智房と抱き合ったまま恐る恐る2人は目をあけた。

すると見えたのは、日常では見られない格好をした人間が集まっていた。
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