いつか君に届け
誕生日
『慶太郎!テストが落ちていたけど君は勉強しているの?』

『うわっ!ちょっと勝手に見ないでよ!』

『だから落ちていたと言っただろう?お前がだらしないからカバンを部屋に放り投げた時にカバンがあいていたんじゃないの?廊下に落ちていたけど。いい点数取ってるじゃないか!まったく勉強していないんだろうと思って心配していたんだよ。でもあの頃のように無理やり勉強させる気はないし慶太郎が勘違いして勉強させられるんじゃないかとトラウマになってるかも知れないと思って触れなかったんだけどね』

『まだ1年だからだよ。これから下がってくるよ。中高一貫の進学校だよ!みんな合格してもまだ競うんだから俺は無理』

『なんで無理なんだ?やってもない奴に無理と言う資格もないだろ?努力した者達がまずスタートラインに立てるんだろ?努力をしていない者はスタートラインにも立てないんだから無理以前の問題だろ?だからって俺はお前にやる気がないのに勉強しろとは言わないけどね。慶太郎!よく頑張ったな!』

『壮ちゃん!俺、塾行きたい!このまま上位にいたい』

『うん。いいけど慶太郎は本当に勉強がしたいの?自分でやるって言い出した事を途中で投げ出す事は許さないよ。わかってるね?じゃあこれも俺達のルールに入れるぞ。破ったらどうなるんだっけ?』

『もうわかってるからいいよ!ウザイ!いったぃ!ご、ごめんなさい!痛い!尻を抓らないでよ!』

『暴言は禁止だよ。慶太郎くん。要注意だな。反抗期だからね』

『わかった。わかりました!痛い!』

慶太郎が自ら塾か。あの頃の君も受かってたはずなんだけどね。問題は君ではなく親の面接だったと俺は思ってるよ。君は努力をしていたし賢い子だった。小学校受験は親が1番頑張ってくれないとね。君が小学校に合格していてもあの家で君はきっと辛いままだったと俺は思う。お前は自分が合格さえしていたらと責めているんだろうけどね。

『慶太郎?そのゲーム持ってたかな?』

『うん。持ってたよ』

『塾は行ってる?俺があまり家にいられなくて悪いんだけど』

『うん。まあ』

『慶太郎!人が話している時は目を見て話しなさいって小さい頃のお前に教えたよね?』

『うん。忘れた。覚えてない』

『んじゃ思い出させてやろうか?』

『・・・・・・。』

『何?言いたいことがあるならちゃんとこっちを見て言いなさい!』

『別になんにもない』

『だから話す時は人の目を見て話しなさいって言ってるんだけど。わからないんだったらお仕置きかな?』

『嫌だ!話す事ないのに壮ちゃんが勝手に喋ってるだけじゃん!』

『ゲームをやめて俺の目を見て話せ!慶太郎!』

『話しなんかない!』

『そうか。もう何度も注意したのに聞かないならしょうがないな。こっちへ来なさい!慶太郎!聞こえないか?』

『聞こえてるよ!なんで?うわっ!痛い!放してよ!なんだよ!放せよ!嫌だ!』

『言ってわからないんだから痛い目に合わないとわからないんだろ?それから塾の先生から連絡があったよ。テキストの支払いの件はついでだったけど2回続けて来ていないんですけど大丈夫ですか?ってね』

『ちょ、ちょっと待って!トイレ行かせて!』

『逃げ出そうかな?って思ってる?言い訳を考える時間を俺は待つのか?あんだけ俺の言う事を聞かなかったのにお前の言う事を聞けって言うの?まあ俺は鬼じゃないから本当にトイレならトイレぐらい行かせてやるよ。反省も長引きそうだしな。何個嘘ついたかわかってるか?早く行ってこいよ。言い訳楽しみにしてるよ』

『ごめんなさい!』

『何がごめんなさいなのかな?ヤバイ時はとりあえず謝っておこうって思ってる?』

『ち、違う!塾さぼってごめんなさい!』

『トイレは?行かないのか?俺は小さい頃のお前を毎日見てたんだよ。覚えてないってとぼけるのは小さい頃からの癖だよな。変わらないね。それからお前が目を合わさない時は嘘をついてる時だったけどどうやらそれも変わらないみたいだな!トイレに行かないんだったらもうお仕置き始めるぞ!』

『嫌だ!ちょっと待って!何回叩くの?』

『じゃあ慶太郎は何回叩かれたらわかるんだ?』

『10回!いってぇー!痛い!っく、いた!痛いよ!嫌だ!いてっ!っぐあー痛い!もう10回じゃん!いたい!いったぁー!っく、や、やめてよ!痛い!壮ちゃん、痛い!』

『慶太郎!なんで尻を叩かれるんだよ?塾をさぼってごめんなさいは聞いた。他には?』

『えっ?他って?いってぇー!痛い!っく、痛い!わかんないよ!っく、いたっ!やめてよ!痛い!俺何もしてないよ!痛い!』

『テキスト代を君に渡したはずなのに先生は支払いがまだだって言うんだけどおかしいね。先生が嘘をついているのか?』

『痛い!っく、ご、ごめんなさい!いたっ!使っちゃった!ごめんなさい!痛い!っく』

『何に?使ったんだ?』

『えっとーカラオケ代とか。いったぁー!もう無理!痛い!っく、いたっ!ゲーム買った!いた!ごめんなさい!痛いよ!っぐぁ、痛い』

『テキスト代だけではゲームは買えないし慶太郎に渡しているおこずかいを足したなら昨日漫画を6冊も買ったお金はどうしたのかな?慶太郎!嘘ばっかり言ってるとつじつまが合わなくなってボロが出るんだよ。それに慶太郎は嘘をつくのが上手くないしね。もう全部正直に言いなさい!座れなくなるぞ!』

『痛い!い、言うからやめて!っく、盗った!壮ちゃんの財布から盗った!ごめんなさい!』

『いくら?』

『えー忘れた!』

『なんで忘れるんだ?自分で盗ったお金だろ?ここまできてとぼけてどうする気だ?』

『本当に適当に盗ったから忘れた!五千円ぐらい?ごめんなさい!』

『お前は本当に呆れるね。罪の意識がまったくないんだな!慶太郎!お前が盗ったのは一万円札だろ。忘れる金額でも枚数でもないよ!』

『痛い!っぐぁーいってぇ!だからごめんって言ってんじゃん!うぎゃーっぐいたっ!っく、ひっく、いたっ!痛いよーっく、うっく』

『もう限界だな。手で叩くよ。お前はゲームを持っていたってところから嘘をついてるんだよ。だから俺の目を見て話さなかった。自分がどれほど嘘をついたかわかってるのか?』

『っく、うっく、だって、怒るじゃん!っく』

『怒られるような事をお前がしたんだろ!買ったゲームは捨てるぞ。いいな?盗んだ金で買ったゲームをやっていてお前は何も思わず出来るのか?楽しめるのか?後ろめたくはないのか?』

『っく、うっく、ごめん、なさいっく』

『俺の目を見て話しなさいって注意しても聞かなかった分を手で20叩くよ!わかったな?』

『っく、いたっ!痛い!うっく、痛い!っく、やだ!痛い!っく、ひっく、いてっ!』

『終わりだ!尻出して立ってろ!慶太郎!しっかり反省するまで終わらないぞ!塾をさぼり、金を盗み、嘘をいっぱいついて俺の目も見れない程悪い事をしてるんだからな!わかったのか?しっかり自分自身に自問自答を繰り返せ!返事は!』

『っく、うっく、は、はい。っく』

慶太郎が金を盗んだ金額を忘れたって言うのは本当かも知れないな。幼い頃からお金を持たされているから金銭感覚はおかしい。自分がいくら持っているか把握出来ていないんだよな。こいつにとって一万円札は千円と同じ感覚だ。コンビニでアイスを買いたいとグズった時に自分で買いなさいって言ったら100円のアイスに一万円札を出して買った幼稚園児だからな。千円札が間に入っているのに。一万円と千円はどちらが大きい数であるかも理解していた。親が持たせ過ぎなんだと言うより親は慶太郎がいくら持っているのかを把握しようとしないから減らないお小遣いが貯まる一方だったよね。まあ慶太郎の場合食費も含まっていたもんな。何故だか慶太郎には作って食べさせないから俺が外で食わしていた。あの仕打ちはどうして始まったんだろうな。弟の慎二郎には作って食べさせていたから家事が嫌って事でもなさそうだった。弟の慎二郎だけに食べさせてる姿を見せつけられる慶太郎は辛かったよね。俺はそんなお前を見ていて辛かったよ。

『慶太郎!反省出来たか?』

『っく、うっく、壮、ちゃんごめん、なさいっく、ひっく、俺が悪い!っく、うっく』

『よく反省出来たみたいだからもういいぞ!慶太郎!二度とするなよ!』

『っく、は、はい。っく、うっく』

『この盗んで買ったゲームは捨てるけど来月のお前の誕生日に買ってやるよ!それなら気持ちよく楽しめるだろ?』

『っく、う、うん。た、誕生日忘れてた。っく、待ってればよかった。うっく』

『自分の誕生日まで忘れるんじゃない!お前が生まれてきた大切な日なんだよ。しかも忘れるような日にちじゃないだろ。お前の誕生日は七夕だからな。俺は1度も忘れた事がないよ。13歳の誕生日をお祝いしような!慶太郎!』

『っく、うん!っく』

本当にこいつは忘れっぽいな。俺は毎年七夕の日に空を見上げて慶太郎が無事育ってくれてるよう願っていたんだぞ。
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