いつか君に届け
呪縛
『慶太郎?慶太郎!ただいま。どうしたの?電気もつけないで』

『あっ!おかえり!壮ちゃん!なんでもないよ。暗くなってる事に気づかなかった。電気つけるの忘れてた』

『慶太郎!桜が綺麗だよ。夜桜見に行かない?屋台も出てるみたいだったし』

『うん。行く』

『慶太郎は夜桜を見た事がある?昼間の桜は俺と一緒に見たよね。お前がまだ幼稚園の頃にお花見がしたいって言って』

『ないよ。桜なんか見る暇なかった。壮ちゃん!りんご飴だ!買ってよ!』

『うん。でも夕飯を先に食べようね。慶太郎!バナナチョコもあるよ!チョコレートは好きになった?』

『嫌いだよ!』

『慶太郎!焼きそばとあとは何がいい?』

『んーといっぱいあるから迷うね!フランクフルト食べたいな!こんな所に来るのは6年ぶりかな?壮ちゃん!ライトアップされた桜も綺麗だね』

『そうだね。1年に1度だけ美しく咲き一瞬にして散る桜だけど多くの人間に感動を与えるんだから桜はすごいね。自然の偉大さの1つかな。慶太郎は今日何してたの?もうすぐ入学式だね』

『うん。なんか桜は悲しい気がする。なんでかな。僕はお昼ぐらいに起きて勉強をしていたよ。なんで僕は勉強なんかしてんだろと思って単なる習慣てやつだと気づいた。勉強をやめてぼうっとしてたから暗くなってんのもわかんなかった。いったぁー!なんで叩くの?』

『生活はちゃんと正しなさい。もう春休みも終わりだよ。お昼まで寝ててどうするんだ。規則正しい生活をしなさい。ルールが増える一方だね。慶太郎くん。俺は遅刻は許さないよ。わかったの?』

『わかったよ!うるさいな。痛い!』

『まったく反抗期だからな。慶太郎は。君は幼い頃から朝は弱かったもんね。俺が毎朝起こしに部屋へ行って幼稚園への支度をさせるのがどんなに大変だったのかを覚えている?慶太郎がグズってお着替えしないって言う事聞かないから俺にお尻叩かれてまた泣いていつもギリギリだったんだからね』

『知らない!覚えてない!』

『ほらまた覚えてないって。慶太郎!人はみんな何らかの使命を持って生まれてくるんだと思うんだ。俺もだしもちろん慶太郎も。ただそれを見つけるのが大変なんだけどね。今はまだ慶太郎にはわからないと思うけど大人になったら少しずつわかってくるよ。大人になったってみんながみんなすぐに理解出来るわけでも見つけられるわけでもないくらい難易度は高いんだけど。俺だって今頃気づく事はいっぱいあるしね。人は一生学ぶんだと俺は思うよ』

『なに?何の話し?壮ちゃんはいつも急に難しい事ばっかり言わないでよ!壮ちゃん!僕を許してくれてありがとう。ねえ!金魚すくいしようよ!』

『慶太郎だって急に心の中の問いを求めてくるんだよ。君は気づいてる?それで持ってかえってちゃんと世話するのか?君は幼稚園の時にも世話をさぼってお仕置きされたんだよ。生き物を飼うって無責任じゃダメなんだ。わかってるのか?慶太郎!金魚だって生きてるんだからね』

『だからやるだけだよ!持ってかえらない。すくって逃がすだけ』

壮ちゃんが許してくれてることが今の僕の支えです。そもそも壮ちゃんは僕が受験に落ちた事を怒ってはいないんだけど。ただ壮ちゃんが僕を受け止めてくれてる事で僕の壊れた心が安心するんだ。許しを求めてしまう壊れた心にもうお母さんに僕が許される事がないと言い放つと粉々に砕け散りそうでどこかでまだ許されるチャンスがあると思っていないと今の僕では受け止めきれない。真っ暗の中にもう行きたくない。だから壮ちゃんが僕の支えです。お仕置きは嫌だけどそれでも今の僕には壮ちゃんが全てです。壮ちゃんには甘えられるのにどうしてお義母さんに甘えられなかったんだろう。僕の本当のお母さんよりあなたは僕に優しくしてくれたのに。今の僕はまだ子供でお義母さんにどう接していいかわからないけど僕が大人になったらお義母さんに親孝行させてください。今の僕に将来の夢とか何もないけど大人になって僕が働くようになったらその時には少しくらい僕もお義母さんにどう接していいかわかってるかも知れないからだから僕に時間を下さい。

『慶太郎!よく似合ってるよ!その制服!学校の前で写真撮ろう』

『もういいよ。めんどくせー。写真なんかどうだっていいじゃん!』

『大事な記念だよ。慶太郎!中学校入学おめでとう!』

『うん。ありがとうございます』

『慶太郎!友達は必要だよ。いっぱい作らなくてもいいから中学高校の6年間で君に親友が出来る事を願っているよ。きっと君の助けになる親友が現れるはずだよ。ほら!撮るよ!お父さんとお義母さんにも君の節目の写真を送ってあげないと』

『そんなの見て嬉しいわけねーじゃん』

『そんなことないよ!少なくとも俺はこんなに嬉しい事は何年ぶりだろうって感じだからね』

『俺は恥ずかしい。撮るなら早くしてよ!』

『まったく慶太郎の反抗期には手を焼きそうだね。僕から俺にかわっちゃったか。俺の影響かな?思春期は難しいな』

お義母さん!壮ちゃんは親バカみたいです。俺の小さい頃の話しをよくします。そして大きくなったって時々泣きます。俺の本当のお父さんよりもずっと俺を愛してくれているんじゃないかと思います。俺はお父さんに抱っこされた記憶はないけど壮ちゃんに抱っこされた事を少しだけ覚えています。お尻を叩かれた事はとくに覚えてるんだけどこんなに親バカだからたぶん俺が覚えていないだけでもっと壮ちゃんに抱かれていたのかも知れません。それに抱きしめてくれたのも壮ちゃんだけです。俺はもう結城慶太郎です。居心地の悪い家には帰りたくないけど俺がお母さんの自殺の呪縛から解放されたらきっとお義母さんにももう少し素直になれると思うからそれまで待っていてくれますか?俺はまだまだ夢でうなされてしまうぐらい弱虫です。壮ちゃんがすぐに来てくれて一緒に寝てくれます。たまに夢なのか現実なのかわからないお母さんが見えてしまって怖くて壮ちゃんにトイレにもついてきて貰う時だってあります。だってお母さんの顔が怒っているから。俺の何がいけないのかわからなくなります。小学校受験に落ちた事以外にも俺はお母さんを怒らせる事をしたのかな?わからないんです。お義母さん!入学式に来てくれようとしていたのに俺が来ないで下さいと断ってすいません。まだダメなんです。俺は壮ちゃんにしか僕を見せられないんです。けして嫌いじゃないんです。わかってください。俺が弱虫なだけです。ただ俺が勉強以外に頑張るべき事を見つけました。俺は強くなります。その為に頑張ります。
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