いつか君に届け
愛してる
『結城です。慶太郎がご迷惑をおかけしてすいませんでした。帰るよ。慶太郎。ほら車に乗れ』

『もう説教とかいらないから。壮ちゃんまだ仕事でしょ。病院戻ってよ』

『戻るよ。慶太郎と飯を食ってから行くさ』

『俺いらない』

『成長期なんだからしっかり食わなきゃダメだ。はぁー。慶太郎!早く食べなさい』

『だってお仕置きは?』

『お仕置きされたいのか?』

『されたいわけねーじゃん。食う気にならない』

『はぁ。お仕置きはしないよ。喧嘩をするなとはルールに入れてなかったからな。でも慶太郎。無茶はやめろ。喧嘩をしてお前に何かメリットあるか?もしもお前に何かあったらどうする?俺はそっちの方が心配だ。早く食べなさい』

『うん!』

夏休み間近だしこれからもっと心配だな。夏休みなんてロクな事をしないんだろうしな。塾へちゃんと行ってくれればいいんだけど。同じクラスの子と喧嘩か。先に手を出したのは相手らしいしすぐに先生が止めてくれたから大きな喧嘩にはならなかったみたいだけどまだ始まったばかりの難しい思春期。問題はこれからだな。

『あっ!親父だ』

『ん?どこ?あー本当だ。慶太郎!話してくるか?』

『何を?それに女と一緒なんだからデートの邪魔なんじゃねーの』

『デートかどうかわからないだろ。仕事の付き合いでランチに来てるのかも知れないしね。慶太郎は新しいお義母さんとは上手くやれてたの?慎二郎の下にも弟が出来たんだよね?優しくしてくれたか?』

『うん。してくれた。でもどうしていいかわかんなかった。ご飯作ってくれたり行ってらっしゃいとか言われた事ないから急にされても困った』

『そうだね。優しくされたら慣れてない分、慶太郎は戸惑ったんだよな。早く食べろ!帰るよ!』

『うん』

『あっ!結城くん?お久しぶり。ごめんね。慶太郎を押し付けて。迷惑かけてない?』

『お久しぶりです。高見社長。俺は押し付けられたと思ってませんよ。俺が好きで慶太郎を預かってるんです』

『あー悪い。慶太郎!背伸びたな』

『誰?その女は誰なんだよ!悠のお母さんがいるだろ!』

『仕事の事で打ち合わせだ。別になんでもない。ガキには関係ない事だろ。お前は結城くんに迷惑かけないようにしてろよ』

『親父!俺の事好きに決まってるって小さい頃言ってたけどあれは嘘でしょ?俺の事なんて好きじゃなかったんでしょ?なんで俺を受験させたの?俺なんかいらないんだから受験なんてさせる必要なかったじゃん!悠には俺と同じ事するなよ!』

『何バカな事を言ってるんだよ。お前を結城くんに預けたのはお前の為だ。あんな事があってせっかく中学受かったのにお前が学校に行きずらくなったら可愛そうだと思って配慮してやったんだ。変な噂さでも立ってお前がいじめられないようにな。だから苗字も変えてもらうよう結城くんに養子にしてもらったんだよ。お前が高校卒業して大学生になればまた籍は戻すさ』

『そんなのどうだっていいよ!あんたの子じゃなくていい!俺は壮ちゃんの子だ!あんたが大学とか決めんじゃねーよ!大学なんか行くか!バカじゃねーの!いつまでもあんたの操り人形じゃねーんだよ!』

『慶太郎!やめなさい!そういう言い方をするんじゃないって言ってるだろ。あんたなんて言うんじゃない!』

『いいよ。結城くん。相変わらず困った奴だ。迷惑かけるね。慶太郎をよろしく頼むよ』

『頼まれなくとも俺は俺の精一杯の愛情を慶太郎に注ぎますよ。高見社長。慶太郎の問いにちゃんと答えてやって下さい。愛してるって言ってやるだけでいいんですよ。慶太郎の為だとかそんな事を慶太郎は聞きたいんじゃないんです。愛されていたのか?愛されているのか?ただそれだけを聞きたいんですよ』

『忙しいから失礼するよ。行こう』

『くそジジイ!俺らだけじゃなく悠も傷つけんのかよ!まだ小さいんだぞ!お前も早く死んじまえ!いってぇー!』

『慶太郎!人に向かって死ねなんて言うな!俺は二度と聞きたくない!帰るぞ!すいません。失礼します!』

高見さん!どうして一言慶太郎に愛してるって言ってやれないんですか?慶太郎は貴方に言って欲しいんですよ。

『痛い!壮ちゃん!ごめんなさい!いたっ!やめてよ!痛いよ!っく、いってぇー!』

『何がごめんなさいなんだ?お仕置きされてる理由がちゃんとわかってるか?勘違いするなよ!学校で喧嘩した事をお仕置きしてるんじゃないぞ!』

『痛いっ!わ、わかってる!っつ、痛い!もう言わない!絶対言わない!ごめんなさい!いったー!っく、痛い!いてっ!』

『慶太郎。本当に俺は二度と聞きたくない。人の命の重さを知る人間になってくれ。お前にはわかるはずだよ。人に死ねなんて冗談でも言わないでくれ。いいな?』

『っく、うっく、ご、ごめんなさい、っく、壮ちゃん、ごめん。もう二度と言わない。うっく、ひっく、っく』

『うん。わかったんだったらいい。俺はお前を愛してるよ。俺に言われても嬉しくないだろうけどな。だからお前には生きててほしいんだよ。俺には必要なんだ』

『っく、壮ちゃん、うっく、お、俺も壮ちゃん好きっく、うっく、ひっく』

『うん。ありがとう慶太郎。じゃあ反省しようか?尻だして壁の方を向いて立っていなさい!』

『えー?なんでそうなるんだよ!してるじゃん!』

『言ってはいけない言葉を軽々しく口にしたんだぞ。言われた方の気持ちを考えなさい。一生傷つける事だってあるんだ。言葉は凶器にもなるんだよ。見えない心の傷はなかなか治らないんだ。わかったらしっかり自問自答して反省しなさい!動くんじゃない!』

『わかってるけど痛いんだよ!』

『尻が痛いのは時間が経てば治る。厄介なのは見えない傷の方なんだよ。見えないからこそなかなか人にもわかってもらえないからね。コラ!動くな!もう1回叩くぞ!』

『嫌だ!ごめんなさい』

慶太郎!見えない傷が1番痛い事をお前が1番知ってるじゃないか。叩かれた尻よりずっと痛いだろ?だからこそお前は優しい人になれるはずだよ。人は痛みを知らないと平気で人を傷つけるようになるからね。お前は他人の痛みをわかってやれる大人になると俺は思っているよ。
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