月夜の翡翠と貴方【番外集】
「どう、おふたりとも。これから稽古を再開するんだけど、見ていかない?劇団の生稽古なんて、そうそう見れるものではないわよ」
ふふ、と得意げに微笑む彼女に、ルトが「いいね」と笑った。
「見学させてもらおうかな。な、ジェイド」
「…あ、うん。お邪魔じゃないなら…」
クランが優しく微笑むと同時に、ロゼが「じゃあ」とこちらを見ながら言った。
「私、先に戻ってるから。ラサバ兄さん、団長が呼んでいたわよ」
「えっ、本当かい?早くいかなきゃ…」
こちらへ「すみません」と言いながら、ラサバが慌てた様子で奥へと走っていく。
そのとき、腕のなかで俯く身体が、僅かに動いた。
眉の下がった顔を上げて、奥へと歩いて行くロゼの背中を不安げに見つめる。
「………」
…どうか、したのだろうか。
「ジェイド?」
すでに奥へと歩き出したルトが、こちらへ振り返って不思議そうに私を見ていた。
「どしたの」
「あ…いや、なんでもない」
未だに浮かない顔をしているスジュナに、「行こう?」と声を掛ける。
スジュナは私の顔をじっと見つめたあと、「…うん」と小さく返事をした。