月夜の翡翠と貴方【番外集】
「スジュナちゃんが役者になれば、尚更。深く関わることは必然的だし、ふたりにはどうにか仲良くなってもらわなきゃって、皆言ってる」
だから皆合意の上で、スジュナちゃんの相手を決めたのに、と、彼女は深くため息をついた。
「…演技の試験の最後の項目に、ロゼがスジュナちゃんを抱きしめるシーンがあるの」
そのとき、スジュナの顔が一層曇った。
抱きしめる…か。
確かに直接的な触れ合いは、否が応でもお互いと向き合わなくてはならなくなる。
それが出来るか出来ないかで、ふたりの仲を判断しても良いくらいだろう。
「…けどこの前、試しにふたりで練習したとき……」
ちら、とクランがスジュナを横目に見た。
スジュナの片手には強くフォークが握り締められ、顔は何かに耐えるような、固い表情をしている。
太陽のような笑顔が印象的だった少女は、小さく口を開いた。
「…ドンって、されたの」
「……………」
私とルトは、静かに言葉を失う。
…『ドンって、された』。
それは擬音だけの表現だったが、大体の想像はついた。