月夜の翡翠と貴方【番外集】
つまり、押されたのだろう。
抱きしめようとして、けれどできなかった、ロゼによって。
「…『やっぱり、無理』って。スジュナ、どうしたらいいのかわかんなくて…」
じわじわと、その目に涙をにじませていく。
ラサバが慌てて慰めると、スジュナは小さく鼻をすすった。
クランはその様子を見つめながら、またひとつため息をつく。
「…まぁ、そういうわけよ。台詞の掛け合いなら、なんとかできるんだけどね…最後だけ、難しいみたい」
…なるほど。
今日私達が訪ねてきたとき、ロゼに対するスジュナの様子がどことなくおかしかったことにも、納得がいく。
目がうまく見れなくて、けれどその後ろ姿を物憂げに見つめていて。
…やはり、難しいのだろうか。
もとは奴隷であったスジュナが、平民と家族になる、なんて。
いやむしろ、今の状態が奇跡なほどだ。
ロゼ以外の劇団の者は、クランをはじめ皆スジュナを受け入れようとしている。
それは、奴隷であった私から見ても充分おかしなことであり、普通の平民なら普通は簡単に受け入れられないのである。