月夜の翡翠と貴方【番外集】
ロゼのように、なかなか理解することが難しい人間がひとりくらいいても、おかしくはない。
当然だ。
奴隷とは、そういうものだ。
軽蔑と偏見の眼差しを、一身に受ける。
人であって、人でない存在。
生きながらに、人権を剥奪された人々。
神に許されたわけでもないのに、人々は彼らを蔑むことを、罪にならないとした。
いつしかそれに疑問を思う者はいなくなり、平民にとって奴隷の存在は、日頃の鬱憤のはけ口となっていった。
…ロゼが理解できないのも、仕方のないことではあるのだ。
彼女にとって、当然だったのだから。
『奴隷』は『受け入れられないもの』なのだということは。
「あんなに頑なになるほど、『奴隷』が受け入れられないものとは思わないけどなぁ…スジュナちゃん、見た目は平民だしな」
そんなことをさらっと、ルトが不思議そうな顔をして言う。
…この男も、そういう意味では対した人間かもしれない。
奴隷であった私へ、『友人として接する』なんて言い出すくらいだ。
恐らく、一般的な感覚はしていないのだろう。