月夜の翡翠と貴方【番外集】
「まぁ、ねえ…私とか他の劇団員は、奴隷だったって意識しなきゃ全然平気なのよ。むしろ、奴隷だったことが信じられないって言ってる人もいるわ。けど、ロゼは…」
クランはその目を静かに伏せると、どこか悲しげに呟いた。
「…あんまり、責めないであげてちょうだいね。ロゼを」
力なく笑った彼女に、小さく返事を返すことしかできない。
…スジュナはやはり、あの笑顔を見せてはくれなかった。
*
「ルトははじめのころ、私のことどう思ってたの?」
翌日、私とルトは宿から出たあと、ふたりでのんびりと街を歩いていた。
「…どう、って?」
噴水公園のベンチに座り、噴き上げる水の音を聞く。
ルトは私の横で地図を眺めながら、私の問いに不思議そうな顔をした。
「…だって、普通に考えたら奴隷と旅なんて、たとえ仕事でも嫌なものでしょう」
けれど、ルトは言葉通りの『友人』をしてみせた。
確かな線引きはしていたものの、彼が『奴隷』の私に顔をしかめるようなことは、一度もなかった。