月夜の翡翠と貴方【番外集】


「まぁ、ねえ…私とか他の劇団員は、奴隷だったって意識しなきゃ全然平気なのよ。むしろ、奴隷だったことが信じられないって言ってる人もいるわ。けど、ロゼは…」


クランはその目を静かに伏せると、どこか悲しげに呟いた。


「…あんまり、責めないであげてちょうだいね。ロゼを」


力なく笑った彼女に、小さく返事を返すことしかできない。


…スジュナはやはり、あの笑顔を見せてはくれなかった。







「ルトははじめのころ、私のことどう思ってたの?」


翌日、私とルトは宿から出たあと、ふたりでのんびりと街を歩いていた。


「…どう、って?」

噴水公園のベンチに座り、噴き上げる水の音を聞く。

ルトは私の横で地図を眺めながら、私の問いに不思議そうな顔をした。

「…だって、普通に考えたら奴隷と旅なんて、たとえ仕事でも嫌なものでしょう」

けれど、ルトは言葉通りの『友人』をしてみせた。

確かな線引きはしていたものの、彼が『奴隷』の私に顔をしかめるようなことは、一度もなかった。



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