月夜の翡翠と貴方【番外集】


なにもできない自分が悔しい。

唯一できるのは、身体を差し出すこと…なんて。

そんなことしか浮かばない自分が、ひどく愚かに感じる。

そしてそのなかに、私的な欲が混じっているから、醜いのだ。


ちら、と隣の主人を見つめる。

…私は、貴方の隣にいることができるほど、良い人間ではない。

奴隷であり、無能で浅はかな私が、貴方の隣にいること。


……きっと、神様は許してくれないだろう。







「港だねー」


正午、前。

町に着くと、大きな船の一部が建物の隙間から見えた。

街は多くの人々が行き交い、賑わっている。

港のほうからは、商人達の声が聞こえる。

大きな荷物を持った貴婦人や、裕福そうな家庭の親と子供が、横を通り過ぎて行く。

「ジェイド、腹減った?」

街を見渡すルトを見つめながら、首を横に振った。

朝食を食べてからそんなに時間は経っていないから、お腹は空いていない。


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