月夜の翡翠と貴方【番外集】
なにもできない自分が悔しい。
唯一できるのは、身体を差し出すこと…なんて。
そんなことしか浮かばない自分が、ひどく愚かに感じる。
そしてそのなかに、私的な欲が混じっているから、醜いのだ。
ちら、と隣の主人を見つめる。
…私は、貴方の隣にいることができるほど、良い人間ではない。
奴隷であり、無能で浅はかな私が、貴方の隣にいること。
……きっと、神様は許してくれないだろう。
*
「港だねー」
正午、前。
町に着くと、大きな船の一部が建物の隙間から見えた。
街は多くの人々が行き交い、賑わっている。
港のほうからは、商人達の声が聞こえる。
大きな荷物を持った貴婦人や、裕福そうな家庭の親と子供が、横を通り過ぎて行く。
「ジェイド、腹減った?」
街を見渡すルトを見つめながら、首を横に振った。
朝食を食べてからそんなに時間は経っていないから、お腹は空いていない。