月夜の翡翠と貴方【番外集】
眉を寄せ、目を細め、大切な親友を見つめる。
そして、大きく口を開いた。
皆が、固唾を飲んで見守る。
思わず、喉がなった。
たくさんの不安げな視線が、一点で絡まったときー……
…ロゼの口から、妖精の名を呼ぶ声は、出なかった。
「………あ……」
少女の震えた声が、その小さな唇から漏れる。
…ああ。
この震えは、演技ではない。
ロゼはその場から一歩も動けずに、スジュナを見つめていた。
「…わ、たし………」
カタカタと、手が震えている。
…いや、手だけではない。
スジュナを抱きしめるために駆け出すはずだった足も、震えていた。
劇団一家の人々が、はっとした顔でロゼを見ている。
団長は、険しい顔でふたりを見ていた。
…もちろん、私も、ルトも。
この場にいる皆が、どうしていいのかわからない、という顔をしている。
…そして、目を見開いてロゼを見つめる、スジュナも。