月夜の翡翠と貴方【番外集】


「…あ……わ、私…」


震えた声と、スジュナを見つめるその揺らいだ瞳も。

まるで、強気な彼女ではないような。

何かに、怯えているような。


ロゼの瞳に、涙が溜まる。

スジュナの瞳にも、じわじわと涙が浮かんでいく。


ロゼはわなわなと痙攣する自身の両手を見つめ、そして、スジュナを見つめた。

やがて唇を噛んだロゼは、震える足を動かして、スジュナに背を向ける。

そして走り出すと、部屋の奥へ逃げ込むように、その姿を消した。


「ロゼ!!」

クランがその後ろ姿へ、叫びにも近い声で呼ぶ。

しかし部屋の奥から返事はなく、うなだれるように肩を落とした。

他の団員たちもどうしていいかわからずに、部屋の奥を見つめたり、稽古場の中央で俯くスジュナを交互に見たりしている。

ラサバは戸惑いを隠せずに、その場からスジュナを見つめていた。


「スジュナちゃんっ……」

ジェイドが駆け寄るが、スジュナは何も言わずに俯くだけ。


…泣いて、いない?

いや、涙を隠しているのだろうか。


< 138 / 455 >

この作品をシェア

pagetop