月夜の翡翠と貴方【番外集】
「…スジュナ、ちゃん」
抱きしめようと、腕を広げる。
けれど、スジュナは私の両腕の前に手を置いて、ふるふると首を横に振った。
…目を、固くつぶったまま。
「…っスジュナ、泣いちゃだめなのっ…!泣かないって、決めたの…!だから、…っ…」
唇をきつく噛んで、スジュナは涙が零れるのを堪えていた。
「…スジュナ、ちゃ…」
「だめなの!うまくいかないことがあっても、泣いちゃだめなの!…っ、へこたれないって、決めたの…!」
私の体を押し返すように、スジュナは抱きしめられることを拒む。
…スジュナには、スジュナなりの覚悟があったのだ。
奴隷であった自分が、この劇団一家の一員になるということ。
それがどれほど大変なことで、難しいことなのか理解した上で、スジュナは家族になることを決意した。
…わからないはずは、なかった。
奴隷として生きていれば、自分がどれだけ忌み嫌われる存在で、どのような立場にあるのか。
わからないはずは、なかった。
それがこんなにも、小さな少女でも。