月夜の翡翠と貴方【番外集】
ルトは「だよね」と苦笑いを浮かべると、私の手を引いて港の方へと歩き出した。
港には、たくさんの船が止まっていた。
漁船や旅客船、商船に国の船。
旅客船の近くには貴族達がぞろぞろと集まっている。
だからか、諸処に役人らしき人間が立っていた。
「げー…お役人さんいるじゃーん…」
ルトがあからさまに苦い顔をする。
前々からそうだが、ルトやミラゼなど、何故か依頼屋の人間は役人を避ける。
私の手を引いて旅客船から離れると、漁船が並ぶ岬の方へ歩いて行く。
「…そんなに、役人と会うのはまずいの?」
訊くと、ルトは乾いた笑みを零して「そりゃーね」と言った。
「…役人からすれば、俺らみたいな裏の奴らは、なにより捕まえたい罪人だしね」
…敵がたくさんいるな、と思った。
ルトはいつだって、気の休まらない生活をしているのだ。