月夜の翡翠と貴方【番外集】
これまで受けてきた痛みは、確実にこの少女へ刻まれている。
深く、深く。
その痛々しい記憶は、きっと明るい笑顔の裏に隠しているのだろう。
…聡い子だ。賢い子だ。
………優しい、子だ。
ラサバや周囲の者へ心配をかけないよう、受けた痛みを誰にも晒そうとしない。
…見せてくれても、いいじゃないか。
その小さな体で、そんなにも抱え込まないで。
その苦しみを、私にも分けて。
「……おねえ、ちゃん」
涙の浮いた碧の瞳が、私の橙の瞳を見つめる。
…ああ、情けない。
こんなにも幼い少女が、涙を堪えているというのに。
どうして私は、涙を堪えることができないのだろう。
そのとき、私の頭の上に、ぽんと手が置かれた。
驚いて上を見上げると、眉を下げて微笑んだ、ルトが見えた。
その表情に、また視界がにじむ。
「…スジュナ」
気付くと、隣にラサバが立っていた。
辛そうに眉を寄せ、愛する娘を見つめている。