月夜の翡翠と貴方【番外集】
クランは小さく微笑むと、「だからでしょうね」と言った。
「ラサバはニーファさんを亡くし、スジュナちゃんを娘にすることで心を癒した。そして父は、恋人を失った悲しみを、孤児の私達を家族にすることで癒した」
…ああ、そうか。
説得のとき見た、彼のあの優しげな顔は。
スジュナを見つめる、彼の目は。
「…きっと、自分とラサバを重ねたんでしょうね。だから、あんなにすんなりとスジュナちゃんを受け入れたんだと思うわ」
孤児と、奴隷の子供。
立場は違えど、どちらも親をなくした子供だ。
「父のそういう思いを知ってるから…みんな、スジュナちゃんを受け入れようと頑張ってる。親のいない寂しさとかは、痛いほどわかるからね。けど…ロゼは」
彼女はその瞳を、苦しそうに揺らす。
ロゼはあのとき、ひどく怯えていた。
肩を震わせた彼女は不安定で、まるでスジュナに恐ろしい何かを見ているようだった。
クランは「私の口から、詳しくは言えないけど」と言った。
「ロゼはね、もとは裕福な商人の家の娘だったの」
…ロゼの振る舞いから感じられるあの気品は、そのことからだったのか。