月夜の翡翠と貴方【番外集】
「けれど親と家を失って、孤児院に来た。その原因が…奴隷、なのよ」
銀髪を揺らし、美しい顔立ちに影を落として、彼女は言った。
…だからあんなにも、奴隷を拒んでいたのか。
「…だから…あまり、ロゼを責めないであげてほしい。仕方ないといえば、仕方ないことだから…やっぱり急には、難しいわね」
クランは、そう言って力なく笑った。
…きっと、ロゼがスジュナを受け入れたとき、それは過去を乗り越えるときなのだろう。
「…そう、だったんですね」
静かに、息をつく。
隣をみると、ルトは何かを考えているようだった。
けれどすぐにクランを見ると、「あの」と声を出した。
「…今、ロゼちゃん、どこにいますか」
クランが、小さく驚いたように目を開く。
私も、同様だ。
依然ルトの顔は真剣そのもので、クランは「…きっと、この近くの教会にいると思うわ」と言った。
「教会?」
「ええ。ここから少し歩いたところに、小さな教会があるの。ロゼは何かあったとき、いつもそこへいくから…」
ルトは「そうですか」と言うと、こちらへ視線を移した。