月夜の翡翠と貴方【番外集】
「…ちょっと、ロゼちゃんのとこ行ってくる」
目を見開く私へ、彼は得意気に口の端をあげた。
そして、ふ、と目を細める。
「お前のご主人様をしてる俺から、ちょっと助言をね」
…な。
「ちょっ…ルト!」
とんでもない発言をしてきた私の主人は、ひらひらと手を振って階段を降りて行った。
確かに、私という『奴隷』の『主人』をしている人間として、ロゼに言いたいことがあるのかもしれないが。
「…ご…ご主人様って……」
…もう少し、言葉を選んで欲しかった。
案の定クランは、戸惑った顔を朱に染めて、こちらを見ている。
「あ…いや、違うんです!これは…」
あたふたと、「言葉遊びをしていて」とか「ふざけているだけなので」と言ってごまかす。
クランは複雑そうな顔をしながらも、何とか納得してくれた。
…あの男、あとできちんと言っておかなければ。
「じゃあ私、まだすることが残ってるから…スジュナちゃん、頼めるかしら」
「はい」
よろしくねと言って、クランは階段を降りて行く。
私はため息をついて、スジュナのいる部屋の扉を開けた。