月夜の翡翠と貴方【番外集】
涙、烙印、彼女のエピローグ
「夜にひとりは危ないですよ、お嬢さん」
教会の入り口の扉へ背を預け、十字架の前で祈りを捧げる少女を見つめる。
彼女はその小さな体を静かにこちらへ向けると、愛らしい顔を厳しいものへと変えた。
「…何か、御用ですか」
…不機嫌、か。
ルトは小さく笑いながら、ロゼの元へと歩き始める。
「もう、そろそろ辺りも暗い。可愛らしいお嬢さんが、ひとりで出歩いていい時間じゃないよ」
ロゼは俺の言葉に、より一層眉間にしわを寄せた。
「…私、あなたのような軽そうな男性、苦手だわ」
…どうやら、俺ではこの表情を和らげることはできないらしい。
ルトは諦めたようにため息をついて、「ちょっとね」と言った。
「君と、話がしたくてさ」
目を細めて見つめると、ロゼは黙って俺を見た。
やがて真っ暗な窓の外を見つめ、「そうですか」と呟く。
そして、教会の奥の通路へと歩き始めた。
…これは、ついてこいということだろうか。
ルトは何も言わず、ゆっくりとその背中を追う。