月夜の翡翠と貴方【番外集】
「…シスターは?」
通路を歩きながら、辺りを見回す。
教会のなかはしんと静まり返っていて、俺たち以外に人の気配は感じられない。
「もう、奥の自室へ入っているのよ」
こちらへ振り返らず、ロゼは答えた。
なるほど。
教会のどこかに、シスターが過ごす自室があるのか。
白で塗られた通路の壁には、淡くランプが灯っている。
…ああ、いかにも教会だ。
こんなことが起こらない限り、俺は教会になんか足を運ぶ奴じゃないんだけど。
神に祈りを捧げるどころか、懺悔することさえ許されるかわからない。
…罪にまみれたこの身で教会へ入れば、冒涜として神の怒りを買ってしまう気がする。
まぁ、さほど神への信仰があるわけでもないし、深く考えはしないが。
はぁ、と小さくため息をついて、前を歩く背中を見つめた。
やがて横に現れた階段を上がると、ひとつの梯子が立てられた小さな空間にたどり着いた。
上を見上げると、天井の真ん中に四角い穴があり、そこから夜空が見える。
どうやらこの梯子は、教会の屋上へ伸びているらしい。