月夜の翡翠と貴方【番外集】
ロゼは慣れた感じで梯子を上がり始める。
四角い穴を彼女の体が通ると、俺も梯子を上がった。
穴から顔を出すと、そこは正方形に煉瓦で囲われた小さな空間だった。
屋根はなく、夜空が見え、冷たい風が吹いている。
ロゼは、静かに空を見つめていた。
俺は梯子を上がり終え、そこへ足をつける。
囲いの下を見ると、教会の庭が見えた。
さらに、チェーリスの街を一望できる。
どうやら、ここは展望台のような役割があるようだ。
街にはぽつぽつと明かりが灯っていて、静かな夜の街へと変わっている。
彼女の向かいの囲いに背を預け、その背中を見つめた。
風になびく、ロゼの赤茶色の髪。
それを見ていると、突然ロゼは「ねえ」と声を出した。
「…あの子は今、どんな感じなの」
依然俺の視界に映るのは、彼女の背中。
…あの子、というのは、きっとスジュナのことだろう。
「…泣くの、我慢してたよ。頑張るって決めたから、絶対泣かないんだって。今は、だいぶ落ち着いてる」
そう言うと、ロゼは「…そう」と返事をした。