月夜の翡翠と貴方【番外集】
「…屋敷が燃えて、両親は死んで。生きていた使用人が、庭の隅で隠れていた私を見つけて、助けてくれたんだけど…もう、そこからは覚えてないわ…」
ルトは、震える少女のもとへと、歩みを進める。
そして、頭を優しく撫でた。
「…話してくれて、ありがと。ずっと、辛かったんだろ」
スジュナを見るたびに、思い出すのはおぞましい記憶。
奴隷の子はロゼにとって、忌むべき恐ろしい存在。
「…あの子は違うって、わかっているのよ。けど、どうしても重なってしまう。あの子の明るい笑顔の裏に、恐ろしいものが潜んでいる気がして…」
ぽろぽろと、涙をこぼす。
ロゼは、スジュナを見つめて震えていた。
その目はスジュナを見ているようで、けれど本当は、記憶のなかの奴隷の子を見ていた。
「…私、どうしたらいい…?ラサバ兄さんを助けてくれたあの子のこと、私だって大切にしたいのよ。でも…!」
ルトはロゼを見つめると、苦しげに、目を伏せた。
「…目を逸らしちゃ、駄目だよ」
そして、呟くように、言う。
ロゼは涙を溜めた目を、見開かせた。