月夜の翡翠と貴方【番外集】
「…奴隷の子だったって、忘れなくてもいい。ただ、スジュナちゃんから目を逸らしたら、駄目なんだよ」
スジュナは心を強くして、向き合おうとしていた。
自分を拒む、ロゼを。
「その奴隷の子を見るんじゃなくて、ちゃんとスジュナちゃんを見るんだ。思い出しても、耐えなきゃいけない。目を逸らさないんだ、って、強く思うんだ」
ロゼは俺を見上げると、辛そうに眉を寄せた。
俺は、優しく目を細める。
「…奴隷の子だって、人間だよ。感情だって持ってる。同じ目線に立って、スジュナちゃんを見てみて」
…ジェイドと過ごして、思ったことがある。
『奴隷』も、俺達と同じように笑って、泣いて、戸惑って、悩む。
彼女らも同じ、人間だ。
分けて考えるべき存在ではなく、同じ目線に立てば、きっと分かり合えることもあるのだと。
「信じるんだ。こっちから一歩踏み出せば、きっと笑ってくれる。駆け寄ってきてくれる。…君の苦しい気持ちだって、理解してくれる」
ロゼは、唇を噛んでいた。
涙を溢れさせて、じっと俺を見ている。
ジェイドは、俺が少しだけ見せた過去への弱さを、彼女の言葉で理解してくれた。
こちらが一歩歩み寄れば、向こうも歩み寄ってくれた。