月夜の翡翠と貴方【番外集】
…大切なのは、一歩踏み出す勇気を持つこと。
恐ろしい記憶から、一歩踏み出すこと。
そうすれば、その手を引いて、きっと苦しみから助けてくれる。
新しい、『家族』の存在が。
「…っ…できる、かしら。笑って、くれるのかしら。私、あんなにひどいことしたのに…!」
ロゼは、俺の手を力強く握った。
「…できるよ。大丈夫。スジュナちゃんも、ちゃんとわかってるから。今度は君から、勇気を出して」
…スジュナだって、苦しいのは同じだ。
あの子は何も言わないけれど、奴隷だった頃はきっと平民から、いろんなことを言われている。
ロゼに拒まれることで、思い出すことも多いはずだ。
けれど、泣かなかった。
必死に耐えていた。
思い出す苦しみを、乗り越えようとしていた。
だからこそ、きっと理解し合える。
互いの存在が、過去を乗り越える助けになる。
「……頑張れるか?」
俺の言葉に、ロゼの瞳は強い色を取り戻した。