月夜の翡翠と貴方【番外集】
スジュナは、納得したような、していないような、複雑な顔をした。
「でも…あの人は、スジュナが『どれい』だから、イヤなんでしょ?」
…あの人。
ロゼのことだろうと思い、ジェイドは苦笑いを浮かべた。
まだ、名前で呼ぶことはできないようだ。
「…そうだね。私もスジュナちゃんも、もう奴隷じゃないけど、『奴隷だった』ってことは、一生なくならないのかもしれないね」
もう、首に枷はない。
鎖で繋がれることもない。
鞭で打たれることもない。
けれど、『奴隷だった』過去が、消えることはない。
残った痛みは身体に刻み込まれていて、治ることはない。
思い出すのは、恐ろしい記憶達。
およそ化け物でも見るような目で、こちらを見ている人々。
その顔を歪めて、暴言を吐き捨てていく。
その言葉に罪の意識など到底なく、人間に良心などあるものか、と幼い私は心のなかで訴えた。