月夜の翡翠と貴方【番外集】
…暖かい。
人々は時に残酷だけれど、それでも。
生きている人の温もりは、やはりこんなにも安心できるのだ。
「…ねえ、スジュナちゃん」
小さな少女の身体を、抱きしめる。
『自分はもう、奴隷でなくなることはないのか』と言ったスジュナの瞳は、揺れていた。
悲しげに、揺れていた。
「スジュナちゃんも、辛かったよね…ずっと」
私は、知ってる。
この身体に隠している痛みを、私は知ってる。
スジュナは顔を私の肩にうずめて、小さく「…うん」と言った。
「…でも…それを理解してくれる人が、いるでしょう。私の他にも、スジュナちゃんには大切な人が、いるでしょう?」
たとえ、奴隷でなくなることはなくても。
人々に、虐げられることがあっても。
それでも私達には、いるのだ。
痛みを理解してくれる、大切な大切な人。
暖かく、抱きしめてくれる人。
…優しく、愛してくれるひと。
「…私は、それだけでいいの。『奴隷』の私を好きだと言ってくれるひとがいれば…それでいいの」
スジュナはより一層私の体を抱きしめると、「うん、うん」と頷いた。