月夜の翡翠と貴方【番外集】
黙って髪を触るジェイドに、クランはふ、と笑う。
『私ね、今になって思うのよ。この色は母が私にくれた、運命だって。この劇団で生きていく、きっかけをくれたんだって。そう思ったら、好きになれたわ』
彼女は目を伏せ、その髪を愛おしげに触れた。
『ジェイドさんは、好き?自分の髪の色』
クランは、真っ直ぐに私を見ていた。
訊かれた私は、少し迷ったあと、『…いえ』と否定の言葉を返した。
クランは『そう』と目を細めると、『ねえ』と言った。
『…珍しい髪ってことは、他のひとが持っていないってことよ。それって、自分の武器だと思わない?』
…武器?
ジェイドは、眉を寄せる。
クランは、『魅力ってことよ』と言った。
『この髪は、私の存在を強くしてくれる。役者としての魅力を、高めてくれる。そう思うのよ。私だけの、武器。母が残してくれた、私だけのもの』
彼女はその銀髪を綺麗に揺らして、そう言った。
『…私、だけの……』
この碧の髪に、もし魅力があるのだとしたら。
…それは、私の『奴隷』としての価値を上げるにすぎないものだと、思っていたけれど。