月夜の翡翠と貴方【番外集】
思えば、この容姿がなければ、私は今生きていなかったかもしれない。
…確実に、ルトに買われることもなかったといえる。
母が残してくれた、運命。
クランは私を見て、ふ、と笑う。
『ジェイドさんの武器は、やっぱりその髪ね。一度見たら忘れないもの』
魅力的なその笑みは、自信に満ちていた。
自分の容姿を認めることができれば、きっとそれは武器になる。
そう彼女は言って、綺麗な銀髪を揺らすのだった。
*
「…あ。あれ、クランさんじゃないか?」
そう言って、ルトが舞台へ指差した。
見ると、舞台の中心で銀髪が踊っている。
ふたりで見に来た、スジュナが主演の劇。
チェーリスの街は懐かしくて、まだあのパン屋があったことも嬉しかった。