月夜の翡翠と貴方【番外集】
「一緒に食べよ」
機嫌の良い笑顔に、つられて「うん」と微笑んだ。
タルトが運ばれてくると、ルトは一口ぶんフォークに刺して、口にいれた。
それをぼうっと見ながら、私もタルトを口にいれる。
…甘い。
おいしい、甘い。
ディアフィーネの関所で、林檎のパイを食べたときを思い出す。
甘いの好きだろ、と言われた。
好きだ、とは言っていないのに。
ジェイドは口に広がる果物の甘さを感じながら、ルトを見つめた。
「…ありがとう」
わかっているだろうに、ルトは「なにが?」と首を傾げる。
「…タルト」
「俺も食べたかったから」
そう言って、笑う。
ひとと同じものを食べられる、喜び。
それをおいしいと感じられる、喜び。
「…タルト、美味しい」
つぶやくと、ルトは優しく笑った。
…本当に、もらってばかり。
返せないでいるのが、とても切ない。
私は、ルトのためになにか出来ないのだろうか。