月夜の翡翠と貴方【番外集】
「ねえ、ルト」
見上げると、あのときと変わらない綺麗な顔が見える。
ここは、ミューザ。
彼の思い出が、詰まった街。
私は以前、彼の口から思い出話を聞いたことがある。
この街で、リロザ、ミラゼと過ごした日々。
楽しい楽しい、子供の頃。
それを話す彼の顔は、明るくて。
…けれど、本当に私が知りたいのは…
私の言葉を続きを待つルトに、口を開く。
…ああ、でも。
「…なんでも、ない」
やはり勇気は、出なかった。
ルトは眉を寄せて、「なに?」という顔をする。
私は少し笑って、「何もないから」と誤魔化した。
…あのころと、同じだ。
拒絶の目が、怖いのだ。
優しいひとだから、気を遣ってくれるかもしれない。
けれど、安易に訊いて良いものではないことくらい、私もわかっているから。
暗い、深緑のわけ。
自嘲するように笑う、彼の綺麗な顔。
『幻滅した?』と言った、彼の声。