月夜の翡翠と貴方【番外集】
…だって、信じられることじゃない。
仮にも、目の前の彼は貴族家の次男。
奴隷など、視界にいれることさえ拒むくらい、嫌っていてもおかしくないはずだ。
私が困惑の表情をしていると、リロザはそれに気づいたのか、「そんな顔をするな」と笑った。
「…立場や身分などは、私のなかの価値を決める基準としては、当てはまらないものなのだ」
リロザは、今までと変わらない優しい瞳を、柔らかく細める。
その目を向けられた私は、戸惑いながらも目を逸らすことができなかった。
「…私は、奴隷としての貴女を見ているのではない。ひとりの女性である、貴女を見ている」
だから勘違いしないでくれ、と言う。
…にわかには、信じられることでないけれど。
それでも、彼の言葉はどれも真実なのだろうと思った。
本当に、その言葉通り、これからも変わらぬ態度で接してくれるのだろう。
…彼もまた、ルトに負けず劣らず変わった人だ。
「……お優しいんですね」
涙が出そうになりながら、ジェイドは微笑んだ。