月夜の翡翠と貴方【番外集】


私は少し気恥ずかしさを感じながら、視線をリロザからルトへ移した。

彼は席を立ちながら、ミラゼと話して笑っている。

私に気づいたのか、こちらを向いた。

「宿、いこっか」

自然な動作で私の手をとり、歩き出す。

頷いて、私は酒場を見回した。


先程までの、賑やかな光景が目に浮かぶ。

…たくさんの、『平民』の人々の目。

それが一斉に向けられたとき、私の心に不快なものは、一切浮かんでこなかった。

それが、こちらを蔑むものではないと理解できたから。

素直に、純粋に、嬉しいと思った。

握られた手を、そっと見つめる。


…全て、この手がもたらしてくれたもの。


けれど、私は何も知らないね。

この手が抱えたもの、この手を染めたもの、…この手の、重みを。


甘んじてそれに溺れる私はまだ、伝わる暖かなぬくもりしか、感じとることができない。







天気の良い空が青く、白い雲がゆるやかに流れ、浮かぶ昼過ぎ。


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