月夜の翡翠と貴方【番外集】
私は少し気恥ずかしさを感じながら、視線をリロザからルトへ移した。
彼は席を立ちながら、ミラゼと話して笑っている。
私に気づいたのか、こちらを向いた。
「宿、いこっか」
自然な動作で私の手をとり、歩き出す。
頷いて、私は酒場を見回した。
先程までの、賑やかな光景が目に浮かぶ。
…たくさんの、『平民』の人々の目。
それが一斉に向けられたとき、私の心に不快なものは、一切浮かんでこなかった。
それが、こちらを蔑むものではないと理解できたから。
素直に、純粋に、嬉しいと思った。
握られた手を、そっと見つめる。
…全て、この手がもたらしてくれたもの。
けれど、私は何も知らないね。
この手が抱えたもの、この手を染めたもの、…この手の、重みを。
甘んじてそれに溺れる私はまだ、伝わる暖かなぬくもりしか、感じとることができない。
*
天気の良い空が青く、白い雲がゆるやかに流れ、浮かぶ昼過ぎ。