月夜の翡翠と貴方【番外集】
原因、価値、素敵な彼と彼女
酒場から大通りに出て右に、人ごみをかき分けて進む。
商人たちの威勢のいい声が飛び交う市場の通りで、ジェイドはひたすら歩いていた。
道ゆく人々が晒された碧の髪を見て、こちらへ驚いた顔を向けてくる。
しかしその無遠慮な視線を気にすることなく、彼女の足はせわしなく動く。
いつも仏頂面なその顔は、珍しく苛立ちを見せていた。
…思えば、私がここまでルトに怒るというのは、初めてだ。
一方的に怒りをぶつけ、こうやってひとりで出てきてしまったが。
話は、昨日の夜にさかのぼる。
そうして今朝から今まで、ずっと私はあのような態度だったのだけれど。
…仕方、ないじゃないか。
あんなことを、言われてしまっては。
*
酒場から宿へ戻り、ふたりで息をついていたとき。
私もルトも酒を飲んでいなかったから、意識ははっきりしていたのだ。
けれど私は酒場の人々とたくさん話をして、あることが頭のなかをひたすら駆け回っていた。
あの酒場の人々のなかには、当然ミラゼやリロザ以外に、ルトと付き合いの長い人がいる。