月夜の翡翠と貴方【番外集】
前に来たときは違ったけれど、今は私とルトが世間で言う『恋仲』であることは、皆知っているわけで。
…当たり前のように、ルトの昔の話をされたのである。
『あいつも、苦労してきたからなぁ』とか。
『今こそ仕事で失敗することなんて滅多にないが、あいつも依頼屋になりたてのころは…』とか。
何も知らない、聞かされていない私には、適当に相槌を打つことしかできなかった。
…だからこそ、気になってしまったのである。
今までなんとなく、誤魔化されていた彼の過去。
訊く勇気が出てこなくて、知ることができなかった。
だけれど、今なら。
断片的でも、いい。
ほんの少しだけでも、いい。
明るい思い出話ではない、闇にまみれた過去の話を。
彼の深緑を暗くする、その訳を。
…知り、たくて。
「…ねえ、ルト」
ベッドの上に座って、隣のベッドで私に背を向け寝転がる彼を見つめる。
「ん?」
珍しく本を読んでいるルトは、こちらを見ずに返事をした。