月夜の翡翠と貴方【番外集】
「…あの、さ」
「うん」
酒場で友人と、盛り上がって話ができたからか、彼は今機嫌がいい。
本なんて読み始めるくらいだから、きっと今なら、ひとつくらいは訊けるはずだ。
私はシーツを小さく握り締めると、できるだけ気丈な声を努めて、言った。
「…ルトは、いつから今の仕事をしてるの?」
…まずは、当たり障りのない問いから。
そう思っていたのに、彼の肩がぴくりと揺れたのが見えた。
「………なんで?」
…急に、低くなった声。
いや、こちらが訊いているのだが。
まさか、この程度でも駄目なのか。
仕事を始めた年齢くらい、教えてくれてもいいような気がするのは、私だけだろうか。
「…いや…少し、気に、なって」
思っていた以上に、反応が芳しくない。
これが駄目なら、何を訊けば答えてくれるのか。
彼は相変わらずこちらに背を向けたまま、小さく呟くように言う。
「…そんなの、気にしなくていいよ」
…気にしなくて、いい?
仮にも仕事の『パートナー』だと言われた私が、気にしなくていい、って。