月夜の翡翠と貴方【番外集】
「……なに、それ」
少し意識して、不機嫌な声を出してみる。
いや、実際に苛ついたのは本当なのだが。
ルトは、私の声色が変化したことに気づいたのか、こちらへ体を向けた。
「…そんな、怒るなよ」
「怒ってない」
苛ついているだけ。
私はルトから目を逸らすと、「このくらい、いいじゃない」と唇を尖らせた。
「ルトこそ、怒らないでよ」
「俺は別に、怒ってないよ」
「じゃあ、なんで教えてくれないの」
わずかに鋭くした瞳を、再び彼に向ける。
ルトは私の言葉に眉を寄せたあと、またこちらへ背を向けた。
「…知らなくて、いいことだからだよ」
…意味が、わからない。
今度こそ私は、「知りたいから訊いてるの」と声を大きくして言った。
彼が、先程よりも困ったような、面倒そうな顔をしてこちらを見る。
「…だから、さぁ」
「理由を言ってくれないと、納得できない。なんで、知らなくていいことなの」
「…………」
半ば、意地だった。
これまでのように、適当に誤魔化されることにうんざりしていたのかもしれない。