月夜の翡翠と貴方【番外集】


睨むように見つめると、ルトは本を置いて「…あー、くそ」と苛ついた声を上げた。

私が、そうさせているのだ。

けれど、そのことに対する無条件な申し訳なさというのは、もう浮かんでこなかった。

だって、そんなのいらないといったのは、貴方でしょう?


ルトはその苛々を隠すことなく、声にのせる。

「そんなの知ったって、どうしようもないだろ」

「だから知らなくていいなんて、理由にならない」

「それは……あー、もう!」

ついに声を荒げた彼の口は、私の手を枕へ向けさせるには充分なほどの、言葉を放った。


「…お前には、関係ないだろ!?」


ボス、と。

ルトの顔面に、白い枕が命中した。


「なっ……」

枕が下へ落ち、見えた彼の顔には、驚きの表情がある。

突然飛んできた枕と、そして…唇を噛んで涙をこらえる、私の顔を、見て。


「…………ば、か」


そう呟くと、私はすぐさま横になり、布団をかぶった。

「……………」

隣から、未だ呆然とした沈黙が聞こえる。

その日の夜は、そのまま更けていった。






「そりゃあ怒るでしょうよ、ジェイドちゃん」


事の起こりを聞いたミラゼは、ため息をついてこちらへ呆れたような目を向けてきた。




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