月夜の翡翠と貴方【番外集】
睨むように見つめると、ルトは本を置いて「…あー、くそ」と苛ついた声を上げた。
私が、そうさせているのだ。
けれど、そのことに対する無条件な申し訳なさというのは、もう浮かんでこなかった。
だって、そんなのいらないといったのは、貴方でしょう?
ルトはその苛々を隠すことなく、声にのせる。
「そんなの知ったって、どうしようもないだろ」
「だから知らなくていいなんて、理由にならない」
「それは……あー、もう!」
ついに声を荒げた彼の口は、私の手を枕へ向けさせるには充分なほどの、言葉を放った。
「…お前には、関係ないだろ!?」
ボス、と。
ルトの顔面に、白い枕が命中した。
「なっ……」
枕が下へ落ち、見えた彼の顔には、驚きの表情がある。
突然飛んできた枕と、そして…唇を噛んで涙をこらえる、私の顔を、見て。
「…………ば、か」
そう呟くと、私はすぐさま横になり、布団をかぶった。
「……………」
隣から、未だ呆然とした沈黙が聞こえる。
その日の夜は、そのまま更けていった。
*
「そりゃあ怒るでしょうよ、ジェイドちゃん」
事の起こりを聞いたミラゼは、ため息をついてこちらへ呆れたような目を向けてきた。