月夜の翡翠と貴方【番外集】
胸張って言えるようなことは何ひとつないもの、と彼女は言った。
「……うん」
本音を言ってしまえば、これ以上彼女に、自分の汚い部分を見られたくないのだ。
情けない話だが、いちばん醜いところを見られたとき、どんな反応をされるのかと思うと怖くもある。
…ジェイドは、綺麗だ。
綺麗でしとやかで、まっすぐで。
優しく包むような笑みも、したたかで妖艶なその瞳も。
…生きることにひたむきなだけの、十八歳の少女のものだ。
奴隷という最下の身分でも、まだ人の道ははずれていない。
罪を犯しているわけではない。
まっとうな世界を生きてきた彼女に、俺の世界はあまりに汚すぎる。
避けられないこと、いつかは話さなければならないことも、わかっていた。
……結局、俺は怖いだけだ。
全てを話したとき、碧の花はそれでも俺を信じてくれるのだろうか、と。
*
「紅茶は、飲めるか?」
はい、と控えめに返事をすると、リロザは優しげに目を細める。
その隣で紅茶の準備をはじめたムクギは、相変わらずの無表情だった。