月夜の翡翠と貴方【番外集】


胸張って言えるようなことは何ひとつないもの、と彼女は言った。


「……うん」


本音を言ってしまえば、これ以上彼女に、自分の汚い部分を見られたくないのだ。

情けない話だが、いちばん醜いところを見られたとき、どんな反応をされるのかと思うと怖くもある。


…ジェイドは、綺麗だ。

綺麗でしとやかで、まっすぐで。

優しく包むような笑みも、したたかで妖艶なその瞳も。


…生きることにひたむきなだけの、十八歳の少女のものだ。


奴隷という最下の身分でも、まだ人の道ははずれていない。

罪を犯しているわけではない。


まっとうな世界を生きてきた彼女に、俺の世界はあまりに汚すぎる。


避けられないこと、いつかは話さなければならないことも、わかっていた。

……結局、俺は怖いだけだ。


全てを話したとき、碧の花はそれでも俺を信じてくれるのだろうか、と。





「紅茶は、飲めるか?」


はい、と控えめに返事をすると、リロザは優しげに目を細める。

その隣で紅茶の準備をはじめたムクギは、相変わらずの無表情だった。



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