月夜の翡翠と貴方【番外集】


私が「そうですか」と返すと、彼は「だがな」と言った。


「…その『過去』というのが、あいつにとってどうしようもなく消したいものであるというのは…貴女でも、わかるだろう」


…どうしようも、なく。

ルトにとって、消したいもの。


「…はい」

あの深緑を苦しげに揺らした彼は、言っていた。

『俺は、ジェイドが思ってるほどいい人間じゃない』と。

彼はとても明るいけれど、その反面自分を卑下しがちなところがある。

それが、彼の『過去』からくるものであるというのは、私でもわかるけれど。


「…私は、知りません」


ルトがどんなに苦しんでいても、それを隣でどんなに隠そうとしていても。

「何も、知らないから。何も、してあげられない…」

苦しさを隠すための笑顔を、抱きしめてあげることができない。

私には何も、できない。

「…そうだな。貴女が知りたいと思うのは、ごく自然であり、仕方のないことだ。それは、ルトもきっとわかっているだろう」

リロザは優しく、聞いてくれていた。

こんなことを彼に言っても、仕方がないのに。

ルトに言えない言い訳を、零しているだけだ。

…情けない、意気地なしの、言い訳。


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