月夜の翡翠と貴方【番外集】
「…簡単な、ことって…?」
「噛み合っていないだけだ。綺麗なものと、汚いものを分けて考えるからだ」
いまいち、リロザの言っていることがわからない。
私が眉を寄せると、彼は小さく笑った。
「貴女は、綺麗なものだけが、価値あるものだと思うか?」
…綺麗な、ものだけが…
私は少し考えて、小さく首を傾げた。
「…わかりません。それだけでないとは、思うけれど…」
「では、逆に。汚いものは全て、価値のないものだと思うか?」
ますます、質問の意図がわからない。
眉を寄せたまま何も言えないでいると、リロザは紅茶を一口飲んで、そして穏やかに微笑んだ。
「…私はな、ものの価値を決めるのは大衆でなく、自分だと思っている」
貴族らしい堂々とした佇まいで、彼は話し始めた。
隣で、ムクギがカップに紅茶を注ぐ。
「他人がそれを汚いと言おうが、それが自分にとって汚いものかは、自分にしかわからん。綺麗なものかもしれん」
綺麗なものと、汚いもの。
人々は手枷をつけた私を見て、汚いと言った。
醜いものだと、蔑んだ。