月夜の翡翠と貴方【番外集】
「自分にとって綺麗なものが、増えたら嬉しいと思う。無価値だと大衆が言うそれが、自分にとって価値あるものだったとき、得した気分になるのだ」
けれど、ルトは綺麗だと言った。
奴隷の私を、彼は綺麗だと言った。
「他人の評価に流されて、自分にとっての価値を見極めないのは、ひどく損なことだ。これは、エルフォードの家訓のひとつでな」
ユティマどのとの契約が良い例だ、とリロザは言う。
小さく、名もないユティマの店。
周りが反対するなか、当時のエルフォード当主は契約を結んだ。
結果、小さな店でひとつひとつ丁寧に作られた絹織物は、貴族達に高く評価された。
話を静かに聞く私を見つめて、リロザは優しく笑った。
「世間的に見れば、ルトもミラゼも貴女も、虐げられる立場かもしれない。けれど私にとっては、大切なものだ。周りにどんなに反対されようが、切るつもりのないつながりだ」
…上級貴族である彼が、裏の世界の私達にこんなにも親切な理由。
それは、彼が他と違う価値観を持っているから。
「…私はな、その度に見極めたいと思うのだ。自分にとっての、価値を。そして感じたものに、正直になりたい」
上品なカーテンが下げられた窓の隙間から、光が射し込む。
リロザの金髪が淡く照らされ、私は眩しさに目を細めた。