月夜の翡翠と貴方【番外集】
立場、誠実なひと、『貴方』の話
『それにしても、あんたは本当に他人を信じないわね』
依頼屋としては正しいのかもしれないけど、とミラゼは言った。
『…別に、信じてないわけじゃない』
棚に並ぶ酒のボトルを整頓しながら、彼女は『信じてないも同然よ』と呆れたようにため息をつく。
俺はむっとして、すっかり冷めた紅茶を睨むように見た。
しかしミラゼはそんな俺にさえも、余裕そうな笑みで一瞥くれてきやがった。
『自分の良くないところを見せたら、嫌われるんじゃないかって思ってる。他人を信じない、恐れて何も言えない、ただの弱虫』
…そう、かもしんないけど。
俺がますます不満気な顔をすると、ミラゼはくすりと笑った。
『…今頃、どうしてるのかしらね。リロザにそれはそれは丁寧に迎えられて、楽しいひとときを過ごしてるんじゃない?』
もしかしたらリロザのこと好きになっちゃうかも、と冗談めかして言うミラゼに、『それは絶対ない』と言い返した。