月夜の翡翠と貴方【番外集】
リロザを信用していないわけではないが…
もし、ジェイドを口説きでもしていたら。
…いや、俺がどんなに甘い言葉で口説こうが、芳しい反応をしてくれることは滅多にない彼女だ。
たとえ口説かれたとしても、相手にしていないというのが最もだろう。
…けれど、もしも。
もしも、リロザに揺らぐようなことがあったら…
ジェイドは何故か、とてつもなく悔しいが、リロザに対して好意的だ。
今回勢いで出てきた言葉が『リロザさんのところ』であったくらいだから、その信頼は相当のものだろう。
『さて、どうするのかしら』
ミラゼは、にっこりと笑う。
それは、もう俺がどうするのか、わかっているような表情で。
俺は小さく舌を出して、『わかってるよ』と言った。
残りの紅茶が入ったカップを、きっと睨む。
そして、荒くカップを持って、一気に飲み干した。
ふふんと笑みを浮かべてこちらを見つめるミラゼを、しっかりと見つめて口を開く。
『…迎え、行ってくる』
ミラゼはにっこりと笑って、手を振った。
*
しぃんと、部屋の中が静まり返っている。
勢い良く開けられた扉の振動で、カップの中の紅茶が揺れていた。