月夜の翡翠と貴方【番外集】


リロザを信用していないわけではないが…

もし、ジェイドを口説きでもしていたら。

…いや、俺がどんなに甘い言葉で口説こうが、芳しい反応をしてくれることは滅多にない彼女だ。

たとえ口説かれたとしても、相手にしていないというのが最もだろう。


…けれど、もしも。

もしも、リロザに揺らぐようなことがあったら…

ジェイドは何故か、とてつもなく悔しいが、リロザに対して好意的だ。

今回勢いで出てきた言葉が『リロザさんのところ』であったくらいだから、その信頼は相当のものだろう。


『さて、どうするのかしら』


ミラゼは、にっこりと笑う。

それは、もう俺がどうするのか、わかっているような表情で。


俺は小さく舌を出して、『わかってるよ』と言った。

残りの紅茶が入ったカップを、きっと睨む。

そして、荒くカップを持って、一気に飲み干した。


ふふんと笑みを浮かべてこちらを見つめるミラゼを、しっかりと見つめて口を開く。


『…迎え、行ってくる』


ミラゼはにっこりと笑って、手を振った。






しぃんと、部屋の中が静まり返っている。

勢い良く開けられた扉の振動で、カップの中の紅茶が揺れていた。



< 226 / 455 >

この作品をシェア

pagetop