月夜の翡翠と貴方【番外集】
そっとリロザを見ると、意味深な笑みで微笑まれる。
ルトが気難しい顔をして、私の手を掴んだ。
「…ジェイドが、世話になった。帰るよ」
何故かまだ不満げだが、リロザが本気で私を口説こうなんて思っていないことは、わかったようだ。
「…ああ、仲良くな。ジェイドさん、またいつでも。今度は遊びに」
「…はい。今日は本当に、ありがとうございました」
一度礼をしてから、ルトに手を引かれ歩き出した。
ずんずんと進むルトの背中を追いながら、私はリロザへ振り返る。
彼が、こちらの視線に気付いた。
「…ルト」
そして、大切な幼馴染の名前を呼ぶ。
ぴたりと、前を歩いていた足が止まった。
振り返らず、ルトは静かに「…何」とそっけなく返事をして。
「…お前も、たまには遊びに来い」
昔のように、と彼は言った。
ルトは、しばらく黙っていた。
…昔の、ように。
まだなにも知らない、純粋な子供だった、あの頃のように。
静かに、ルトは「…ああ」と返した。