月夜の翡翠と貴方【番外集】
もう、無理かもしれない。
まるで真逆な身分のふたりが、子供のころのような関係を築くのは、きっと不可能だろう。
だからこそ、彼らは酒場で会っている。
誰にも見つからないように、夜の街へ足を運んで。
大切なつながりだから。
無くしたくない、関係だから。
リロザがフッと笑ったのを目に映したとき、再びルトが歩き出した。
手を引かれ、部屋を出る。
直前に、扉の横に立っていたムクギへ礼をした。
彼はやはり表情を変えずに、「また」と言った。
*
「リロザと何話してたの」
エルフォード邸を出た後、ルトが拗ねた顔でそう言ってきた。
手を繋ぎ通りを歩きながら、私は彼の顔をちらりと見る。
「…別に」
「なにそれ。あんな顔近づけといて、別にはないだろ」
どうやら、だいぶ根に持たれているらしい。
何というべきかと考えた後、結局私は「何もないよ」と言った。
顔を見ると、案の定不満気な色である。
私はむっとして、「じゃあ」と言った。