月夜の翡翠と貴方【番外集】


「ルトは、何してたの。私が酒場を出た後、すぐに追ってきてくれたの?」

違うでしょう、という目で見つめる。

ルトは罰の悪そうな顔で、「いや」と言った。

「しばらく、酒場でミラゼと話してた」

「何話してたの」

「…………」

気まずそうにそらされる目。

…気にならないと言ったら、嘘になるが。

無理に訊こうとは、思わなかった。


…けれどやっぱり、少しだけ。

私は黙り込むルトを見て、「あのね」と言った。

…このくらいは、許してほしいと思うのだけれど。


「リロザさん、本当に素敵な方だね」


見上げると、心底面食らったような彼の顔が見えた。


「ほんとに、何話したんだよ!?」


わざわざ足を止め、こちらへ向き直る。

何故だか握る手の力も強くなって、私は思わず笑った。


「内緒」






それからは、日が暮れるまでふたりで街中を歩いていた。

他愛のない話をしながら、手を繋いで歩く。

それは、何らいつもと変わりのないことなのに。


『訊きたいことがあるなら、言って。答えるよ』


そう言った宿に戻るまでの帰り道、彼の目は少しだけ、いつもと違っていた。


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