月夜の翡翠と貴方【番外集】
「ルトは、何してたの。私が酒場を出た後、すぐに追ってきてくれたの?」
違うでしょう、という目で見つめる。
ルトは罰の悪そうな顔で、「いや」と言った。
「しばらく、酒場でミラゼと話してた」
「何話してたの」
「…………」
気まずそうにそらされる目。
…気にならないと言ったら、嘘になるが。
無理に訊こうとは、思わなかった。
…けれどやっぱり、少しだけ。
私は黙り込むルトを見て、「あのね」と言った。
…このくらいは、許してほしいと思うのだけれど。
「リロザさん、本当に素敵な方だね」
見上げると、心底面食らったような彼の顔が見えた。
「ほんとに、何話したんだよ!?」
わざわざ足を止め、こちらへ向き直る。
何故だか握る手の力も強くなって、私は思わず笑った。
「内緒」
*
それからは、日が暮れるまでふたりで街中を歩いていた。
他愛のない話をしながら、手を繋いで歩く。
それは、何らいつもと変わりのないことなのに。
『訊きたいことがあるなら、言って。答えるよ』
そう言った宿に戻るまでの帰り道、彼の目は少しだけ、いつもと違っていた。