月夜の翡翠と貴方【番外集】
「仕事を始めたのは、そーだなぁ…十二…くらいかな」
ベッドに腰かけて、ルトが考えるように宙を仰ぐ。
私はベッドの上に座って、彼の背中を眺めていた。
「…結構、早いね。十二歳って」
「…うん。始める前の一年間、ミラゼについてまわったんだよ。仕事のこと教えてもらったり、体術とか鍛えてもらったり」
なるほど。
ということは、ルトが『裏の世界』に触れたのは、わずか十一歳のとき。
だからルトは、まだ十九だというのに、こんなに仕事をこなせるのか。
昨日の夜に訊いた、仕事を始めた年齢。
予想外な答えと、少しだけ弱々しい彼の表情に、戸惑ってしまう。
ぎゅ、と目をつぶり、片手でルトの左手を握った。
彼の顔が見れなくて、目を逸らす。
隣から微かな笑いが漏れたのに気付き、息がつまった。
「…俺の、つまんない昔話、聞いてくれる?」
自嘲気味なその声に、胸が締め付けられる。
こく、と小さく頷いた。