月夜の翡翠と貴方【番外集】


「………ありがと」


彼は優しく微笑んで、暗い窓の外を見つめる。

ぽつぽつと、建物の明かりが見える。

ルトは「ミューザは、俺が生まれ育った街でさ」と言った。


「…生まれたのは、普通の、平民の家庭だった。どちらかといえば貧しいほうだったけど…友達もいて、幸せに暮らしてた」

父親はいなかったけど、と彼は言った。

それでも母親とふたりで、頑張って生きていたのだと。

「友達もいて、そのなかにリロザもいて…俺、そのときからじっとしてられない奴でさ。夜とか、家を抜け出して色んなところ行って、ミラゼに会った」

ルトは苦笑いを浮かべながら、当時のことを話してくれた。

リロザとはこの頃から喧嘩ばかりだったけれど、いちばん気の合う関係だったこと。

ミラゼとは五歳違っていて、八歳のとき夜の通りで出会ったこと。

懐かしげに目を細めて話すルトの顔を見つめながら、私は静かに話を聞いた。

けれどふたりの話が終わると、ルトの顔は段々と曇っていった。


「…でも、それも十一のとき…全部、終わった」


ルトは、目を細める。

私は強く手を握る。

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